NHKの朝ドラは、4月から新しい物語に入った。直近の半年は賑やかな歌が売り物の笠置シズ子の半生だったが、今度は三淵嘉子という日本最初の法律家誕生のお話だそうだ。物語の展開を、NHKは次のように紹介している。・・日本初の女性弁護士、後に裁判官となった一人の女性、猪爪寅子のお話です。困難な時代に道なき道を開き、悩みながらも一歩ずつ成長していく姿を描きます。
ドラマの題名は「虎に翼」となっている。天分に恵まれた人が、さらに法律の専門家という強い武器を持つようになったことからそう名付けられたようだ。しかし、もしそうだとしたら、普段使われることの多い「鬼に金棒」の方がわかりやすかったのではなかろうか。もっとも、主役が女性だから「鬼」では、ということだったのかもしれないが・・。
ここで、ドラマのモデルとなった三淵嘉子についてちょっと触れておこう。生まれは1914年(大正3年)、逝去されたのは70年後の1984年(昭和59年)だった。日本初の女性弁護士の一人で、初の女性判事及び家庭裁判所長も努めた。ここで注目したいのは、彼女の生まれたのが大正3年、1914年だったということだ。この年は、「五黄の寅年」と呼ばれとくに注目されていたのだ。かつて騒ぎとなった「丙午(ひのえうま)」と似たような理由からである。
中国の占いの一つに、9年を周期とする九星気学と呼ばれる説がある。この占いでは、九星のうち五星の年に生まれた人は強いパワーを持つといわれている。この五星が、十二支の12年周期でやってくる寅年と重なると、「五星の寅年」と呼ばれさらに特別な年となる。36年周期でやってくるこの五星の寅年に生まれた人は非常に強い運勢を持ち、とくに女性は強運の傾向が強いのだそうだ。
新しいドラマの主人公は「ともこ」と呼ばれているが、それを漢字で書くと「寅子」となる。五星の寅年生まれを十分に意識してのことであろう。名字に「猪」をもってきたのも、強さを意識してのことと思われる。虎に翼とは、ただでさえ強い力を持つ者にさらに強い力が加わることのたとえである。類似の熟語には、鬼に金棒、虎の角、駆け馬に鞭、龍に翼、弁慶に薙刀などがある。
あのドラマを見ていると、当時の日本がいかに男尊女卑の不平等な世の中だったかがよくわかる。そんな厳しい時代に、女性一人でよくもまあ新しい社会システムの変革に挑んでくれたものだ。さすが五星の寅年生まれ、やはり虎のような強力なパワーと翼のような機動力を備えていなければなしえなかったことである。このエピソードは、非力な私たちにこの上ない応援歌となる。
翻って、現今の男女平等の平和な時代には、こんな熟語がお似合いではなかろうか。・・“ドジャースに大谷”、“大谷に新妻とデコピン”・・。
(2024年04月11日 藤原吉弘)