わが実家のみかん畑は、孟宗竹に占領されて久しい。わが家に限らず、西日本の耕作放棄地は軒並みそのような惨状に陥っている。そのふる里に帰ってくるなら、タケノコを掘ってきてくれと家内にいわれていた。たしかに、近所で売られているものは500円から1,000円近くもしている。せっかく帰省するのだから、採り放題のタケノコくらい持って帰るのは当然というわけである。
ただ、クワやスキといった道具までは持ち合わせていない。まさか、イノシシのまねをして素手で掘る訳にはいかないだろう。と思いながらも、とにかくわが家の“タケノコ畑”に向かった。さいわい、途中で親戚の人に出会った。さっそくその人の手とクワを借り、その人の竹藪からタケノコを掘り出してもらった。その奥の草深い道を、わが家の藪までわざわざ行く必要はなくなった。
帰宅翌日、家内は宅配便で届いた4本のタケノコをすぐに米ぬかでゆでた。そして、その日からタケノコづくしの食事が始まった。酢味噌和え、煮物、タケノコご飯それに吸い物などなど。2本のタケノコを何通りにも分けて調理し、数日をかけて大切に味わった。あとの2本は冷凍にして、少し間を空けて、今度はチンジャオロース(青椒肉絲)や酢豚など中華系の料理で味わうつもりである。
タケノコは竹の繁殖のための若芽である。竹は節ごとに根と芽を備え、3~4年目の芽が春先に伸長を始める。地上に出たころは1日に数センチ、10日目ごろからは数十センチから1メートル近くも伸びる。2~3カ月で伸長は止り、その年のうちに立派な成竹となる。タケノコとして旨いのは、孟宗竹でいえば地上に出る前、遅くとも地上数センチくらいまでが旬のようだ。
タケノコを、漢字一文字では「筍」と書く。つまり、タケノコという字は「竹」と「旬」から成り立っている。旬を「シュン」と読むと、「食物の味の最もよい時節」を意味し、「ジュン」と読むと「十日のあいだ」を意味する。かくして、タケ×シュン×ジュン=タケノコという数式が成り立つ。筍は、タケノコの特性を実によく表現した文字であり、漢字の面白さにあらためて驚かされる。
竹にもいろいろな種類があるが、食材として旨く汎用性のあるタケノコは孟宗竹の若芽であろう。タケノコについては、「湯を沸かしてから掘れ」ということわざがある。タケノコは、根から切断された直後から急速に固さとえぐみが増す。それを止める方策は、とにかく早めに茹でることである。そして、そのとき米糠や重曹などアルカリ性のものを入れてあく抜きをすることである。
タケノコには、「「雨後のタケノコ」、「タケノコ生活」、あるいは「タケノコ医者」など日常生活の機微を絶妙にひねったことわざも多い。その見事な切れ味とともに、あのしゃきしゃきとした歯ごたえをこれからも大切にしていきたい。
(2018年4月26日 藤原吉弘)