ふる里を後にして、あっという間に半世紀を超える歳月が過ぎた。この間、育ててくれた両親には、親孝行の真似ごとくらいはさせてもらったつもりでいる。しかし、自分を育んでくれた環境、つまりふる里そのものには特にお礼らしいことはしてこなかった。このまま知らん顔をしていていいのだろうか?そうしたふる里に対する後ろめたさのようなものを、多少なりとも癒してくれるのがふるさと納税ではなかろうか。そんなことから、制度が始まって間もないころから、私も心ばかりではあるがそれに協力をさせてもらってきた。
いままで踏んできたふるさと納税の手順を振り返ってみると次のようになる。同郷人の会などで案内書が配布される。それに添付されている申込書に必要事項を記入して、ふる里の役場宛ファックスで申し込む。役場から振り込み用紙が送られてくる。その用紙で郵便局から希望金額を振り込む。役場から礼状と領収証が届く。別途、役場の指示により業者から返礼品が届く。所得税の確定申告の時期になると、その金額を織り込んで申告をする。
ふるさと納税とは、大都市に住む個人から財政の脆弱な地方自治体に、少しでも多くの寄付をしてもらおうと始められたもののようだ。それを促進させるために、寄付をした人に税務上の優遇措置がとられることになっている。具体的には、寄付した金額の2千円を超える部分について、一定の上限まで、原則として所得税と個人住民税が控除される。この措置は5団体まで認められている。一方、寄付を受けた自治体からもその人にお礼の品物が送られてくる。
ふるさと納税の規模を、公表されている私のふる里の事例でみると、平成25年度:170件・398万円、平成26年度:386件・752万円、平成27年度:320件・749万円となっていた。これらの使い道としては、平成26年度はipad22台を購入し各中学校の授業に活用、その費用は139万円だった。また、平成27年度は、町内の2級河川4カ所に防災カメラを設置し河川の水害対策などに活用、その費用は496万円となっていた。
この実績をみる限り、きわめてささやかではあるが、本当の志を持った人たちが健全な姿で納税に応じているとみられる。ところが最近では、魅力的な返礼品を多数用意し、まったく縁もゆかりもない人たちから競争で多額の寄付をかき集めている自治体が多数あると聞く。上位クラスは、その金額も億の単位に上るという。寄付する人も、返礼品目当てにそれに手を染めているという。
ブームもここまで来ると、本来の趣旨が大きく歪められ、寄付する方も寄付を受ける方も欲の張り合いのような様相を呈してきている。この制度も、ぼつぼつ見直しの時期に来ているのかもしれない。
(2017年1月5日 藤原吉弘)